Q. まず最初は、フルートを始められた経緯と、スタジオミュージシャンとして活動を開始された時期をお訊きしたいです。
A. 最初に笛に興味を持ったのは、当時のラジオドラマ「笛吹童子」の影響でした。デパートで竹の笛を買ってもらって遊んでいました。
中学生でブラバンに入り、当時、楽器が乏しかったのでコルネットを担当。3年生で初めてフルートを手にしました。独学で「京都市立堀川高校音楽科」に進学、卒業後は「大阪市音楽団」に入団しますが、9ヶ月後には関西交響楽団(現・大阪フィルハーモニー)に移籍。演奏家として、オーケストラに入りプロになると言う当初の形を達成できました。 1971年だと思いますが、東京交響楽団に移籍。その後、サラリーマン的な人間関係のオケより、スタジオワークが自分には向いていると思いました。
Q. 当時のスタジオ録音はどんな感じでしたか?
A. わたしがスタジオに入った頃はCMの仕事が圧倒的に多かったです。当時CMや劇伴の仕事はスタジオでは比較的お金にならない仕事で、まず新人はCMからという感じでした。美味しい仕事は、映画音楽、カーステレオ関係、後にはカラオケでした。
撮影所で映画の録音というのは、一作品、丸二日位かかりましたが、二日もやれば親の月給を超えるほどで、簡単に都内に家を買えましたね。でもその美味しい仕事で稼ぎまくっていた人たちは、身体を蝕みながら仕事をしていたのか、比較的短命な方が多かったと思います。
吉沢実さんという方の指揮は完璧で、フィルムをみて音の変わり目・終わり方など秒単位できっちり合わせてくれました。ドンカマも無い時代、素晴らしい職人が支えていましたね。もちろん、一発録りですから、最後の方で間違えると全部やり直し。ひんしゅくものですね。まあ、一回はしようがないかな(笑)。演歌・劇判などは、プロツールスを使うようになるまで、同録がかなりありました。
S. やはりCMの録音は多かったかな。CMは2時間押さえと言う規定があるけれど、10時〜12時押さえのあと11時〜1時という取り方が出来ていましたね。一発録りで時間がかからない上、ミュージシャンが足らなかったのでそんなことも許されたのでしょう。
Q. 旭さんは、色んな特殊楽器を演奏されていますが、どんな経緯なんですか?
A.リコーダーはバロック音楽に興味があったので、オケにいたころから少しかじっていました。たまに演奏の依頼があると、先輩ミュージシャンがかなり怪しげな楽器で対応して、演奏も怪しかったものです。たまたま私が吹いてみたら気に入られて、リコーダーやオカリナの仕事が来るようになってきました。
ケーナに関しては、フォルクローレブームの頃にお前出来ないか?と言われて買って始めましたが、ピッチなどがかなり不十分だったので自作するようになりました。
Q.現在、フルートと特殊楽器では、依頼される割合はどのくらいですか?
A.多分、半々くらいかな。特殊楽器の方が増えてきてはいると思います。フルートは打ち込みを使っても、特殊楽器はやはり生音で録音というのもあるかな。
Q.スタジオ独特の譜面の読み方って、どうやって身につけられましたか?
S. 以前はその場にいる人が教えてくれましたね。
A. もちろん先輩に合わせるというか、そこから自分で学んでいくのですが、弦の人を見ていると自分の主張もできる必要はあるかもしれません。もちろんアンサンブルの中ですが。
Q.スタジオミュージシャンの今と昔を比べると、大きく違うことはどんなことでしょうか?
A.技術的には、はるかにレベルが上がっていると思います。弦セクションは以前とは全く違います。以前は、後方では殆ど弾いていない人や、難しいところはパスしている人がかなりいました。「マサさん」以降などはそういうことはあり得ないし、まあ、今は個人技術も高く、調和もとれています。
今から思えばそうそうたるジャズミュージシャンがスタジオに出入りしていたようで、ちょっとした空き時間にもすぐにジャムセッションらしきものが始まったりして、結構面白かったです。
邦楽系の方の中には譜面に弱い方もいらっしゃって、結構苦労されるケースもあったようです。
S.これからスタジオミュージシャンの仕事に入り込むにはどうすればよいでしょうか?
A.それは一概に言えないし、仕事自体も少なくなってきていますから(笑)。ただ、人間関係は大きいでしょう。マサさんのセクションでやっている人なら信頼も置けるし。
でも、マサさんにたどり着くために、紹介してくれる人は必要ですね。
演奏について言えば、演奏する曲を理解して、その曲に必要な演奏をすることが大事ですね。本能的な「勘」みたいなものかな。
それと、自分が無理に目立とうとするような演奏は避けた方が良いと思います。もちろん、ソロなどでそういう要求があるときは別です。
これに関しては、私のHPに書いたことがあります。もし宜しければ参照してみてください
http://dadaji.web.fc2.com/HP/how2-sm.htm
また、昔のスタジオやスタジオミュージシャンの話などの記述も有りますので、こちらもよろしければ。
http://dadaji.web.fc2.com/HP/index.html
http://dadaji.blog112.fc2.com/
Q.そう言えば、早くからITに興味をお持ちのようで、ブログ・ホームページ・facebookも早くから参加されていますね?
A.ブログやホームページより以前、パソコン通信と呼ばれていた時代からやっております。
確かに、何事にも興味を持ってやることが好きです。特殊楽器もお金になると言うより、やはり興味があるのですね。楽しんでやっています。
Q.音程については、どのようにお考えですか?
A.音程というのはかなり相対的な事柄で、正解はその時々、その曲ごとにあると思います。科学的な音程の良さには自信がありません。
スタジオでは、チューナーを前に置いてチェックしていますが、フルートの場合、チューナー通りだと低すぎたりします。ただ、不思議なもので、チューナーを置いていると全く使っていなくてもピッチに関してクレームが付かない、という事があったりします。
Q.旭さんほど長く現役でいらっしゃる方にぜひ伺いたいのですが、演奏や仕事内容などで年齢を感じることはどんなことでしょうか?
A.楽器というのは、身体に不自然な姿勢で構えていて、フルートの構えている手の形は結構つらいです。
呼吸でいうと、フルートは管楽器の中では、息を多く使う楽器ですが、呼吸のバランスが良いので問題ありませんね。まず歯が悪くなってリタイアする人も多いのですが、その点は大丈夫でした。
仕事量で言えば、60才になった頃に急に少なくなった気がします(同年代のお二人も同意)。世の中がスタジオミュージシャンを必要としない時代になってきたなど、色々な要素があるので一概には言えないですが、ひとつの転機だったかも知れません。
でも、その後はコンスタントに仕事は来ていますので、もし、以前のペースでしたら間違いなく身体を壊していたでしょう。そういう意味でも運がよいと思っています。
どの楽器でも演奏するという事はスポーツと同じくらい肉体労働的な要素が有るので、当然加齢とともに劣化してきます。その劣化を経験や知識で補っていく、言い換えればごまかす事が出来るわけです(笑)。
Q.教える仕事をしたことはありますか?
A.正式に習ったことがない事もあって、教えるのは苦手であまり好きでもないので、現在ではありません。
Q.今後、ご自分のプロジェクトなどお考えですか?
A. 自分で企画して、アーティスト活動をするのは、もう少しきついと思います。自分の生き方としては、そういう活動を特にしたかったわけではありませんが、50代くらいの時にそういうことにチャレンジしておいても良かったかな、というくらいはあります。
Q.では、最後にお訊きします。
長い経験の中で、旭さんにとって「Legend」と呼べる方は?
A. 同業者ではないですが、一発録りの時代に出会った指揮者の吉沢実さんや、やはり指揮者の中谷さんでしょうか・・・。
お好み焼きなどを食べながらお酒を酌み交わし、楽しい対談になりました。どうも有り難うございました。
◆RMAJ NEWS No.27 2015. Aug. 掲載◆